第3章 さん
「松田サンがまともなこと言ってるから」
ベシッと頭を叩かれる。
「おまわりさーん、婦女暴行だよー」
この糸の先に繋がってる相手と出会って、恋して、両親みたいにずっと…って。
松田サンと?
「うるせーな。話替えんなよ」
……ないな。
「ちぇ」
「で、ないのか?」
…他にない。
「ない」
…そう、ないのだ。
「強いて言うならお嫁さん?大学出たら結婚したいなぁ」
「…つまんねぇやつだな」
まぁ、松田サンにはわかんないでしょう。
そのお嫁さんという言う夢も、あなたがこの世にいない限り無理ってこと。
「なんか面白いことありませんかね?」
つまんねぇやつ、時間差でその言葉がしっくりくる。
「じゃあ、俺の代わりに警察になって警視総監殴ってくれよ」
私が夢ないって、言ったから。
お嫁さんになりたいって、本気じゃないのに言ったから、つまんねぇやつって言ったんでしょ。
「ふ、まぁありかな」
本気で言ったら、なんでも認めてくれそうだもん。
松田サンは。
「よし、じゃあ問題とかねぇとな。教えてやるから教科書開け」
ねえ、そう言う人でしょ?
「松田サン?」
「なんだよ。今度は何が不満?」
ぽんぽんっと頭を撫でてくる。
「松田サンって、変な人だね」
「あ?」
「松田サンの代わりに警視総監殴ったらさぁ、…殴ったら」
「…」
「殴ったら捕まるよね?」
「ふ、ははは」
殴ったら、ちょっとは私のこと好きになってくれるかなぁなんて、猟奇的すぎて言えない。
そんな暴力的な女子、松田サンだって嫌でしょ?
「そこかよ」
「うん」
「松田サン、」
「なに」
「ごめんね」
「…」
「私馬鹿だから、勉強教えてくれるの骨が折れると思うんだ」
「かかってこいや。覚悟はできてる」
茶化すように言って、もう一回私の頭を撫でる。
やさしくて、なんか変なの。
「で、どこわかんねぇの?」
「全部」
「全部かよ」
「分からないところがわからない」
「…………」
サングラスを静かに外し、満面の笑みを使った松田サン。
「お前典型的な馬鹿なのか」
やっぱりさっきの取り消しで。
ベシッと殴る。
神様、運命の相手、チェンジで。