第3章 さん
「きゃー、だいたぁん。キスでもします?」
タコのように口を突き出し、フグのように口をぱくぱくさせる。
「ちげーよ、縫うんだよ」
「物理か。取れやすいようになみぬいにしてくださいね」
「まつり縫いに決まってんだろ」
すっかり赤みがひいた松田サンが、さっきまでの調子を取り戻して、サングラスをひったくる。
「きゃー、お巡りさんひったくり」
「その前にお前は窃盗だろうが」
「あ、たしかに」
「納得すんのかよ」
「たまに、サングラス外してくださいよ」
「あぁ?」
「イケメンは正義なんで、って、お巡りさんだからそもそも正義か」
「お前、変なやつだな」
さっきも聞いたけど少女漫画でよくきくセリフだ、なんて思いながらそのセリフだとやっぱり松田サンと恋に落ちるルートじゃんなんてツッコミをいれる。
そんなツッコミも、もう遅いかもしれないけど。
「…あと、大人として教えてやるけどな」
「なんですか?」
「普通はタコみたいな口してキスしねーぞ」
真顔でそんなこと言ってくる松田サンも、十分変なやつだなって話だ。
「さっきのはネタに決まってるじゃないですか、タコだけに」
「誰が寿司の話しろっつったよ」
「ふ、」
松田サンとのテンポの良い会話に、心地良さを感じる。
やっぱり波長合うのかな。
…運命の相手だから?
なんて、都合がいいかしら?
《普通はタコみたいな口してキスしねーぞ》
そりゃ、大人だからね。
知ってて当然でしょ。
松田サンイケメンって発覚したし?
想い人だっていたし?
…キス、したことあるんだ。
「お前将来の夢あんのか?」
って、センチになるなって。
私さっきからすっごい重くて気持ち悪いことになってるぞ!
「唐突に、なんですか?」
「今後もお前にくっついてかなきゃ行けないなら、知ってた方いいだろうが」
…夢。
夢か。
もう、叶ったようなもんだしな。
と、小指を見る。
「…」
「ねぇのか?」
誰かと繋がりたかったって言ったらどう思う?