第1章 1st
「知ってますよ、」
「え?」
「俺も、その気持ちよく知ってる。…だけど、それを知ってる君だから、これから先君と共にありたいんだ」
「…ずるいなぁ、私3人の中で1番今のが好きだな。」
「初めからこっちで行けば良かったか?」
「ねぇ」
車窓にうつるわたし、情けない顔してる。
「なら、ひとつだけお願い。」
「なんだ?」
「あいつの、…研二の残り香が消えるまで待ってくれない?」
「…仕方ない、か。」
「それまでにさ、ゼロに戻ってよ。誰でもない、ゼロにさ、」
「…」
「そしたら、一緒になってもいいよ?一妻多夫はこの身に余り過ぎ去るもん。」
「…わかりましたよ。」
ウィンカーを上げた先、私の家までの帰り道。
「ねぇ、最後まで一緒に立ってあげられなくてごめん。ハッキングとかだけなら今まで通り、協力させて」
「辞表、出すのか?」
「うん、正直もう限界。だけどその間私、今度はあなたが休める場所ちゃんと用意しとくから。」
「ふ」
車をよく壊していた彼の、安全運転。
「乗り心地よかったよ、萩みたいに」
「意地悪だな、君は。」
「安室さんに、依頼。荷物、部屋まで運んで?依頼料は、コーヒー淹れてあげる、あと賞味期限間近のデザート冷蔵庫に入ってたから、おやつに一緒にどう?」
「仕方ありませんね。」
こういう時、私はずるい。
病院から何度目かの信号を通り抜けて、たどり着いた私のマンション。
「私も持つよ」
「あなた、病み上がりでしょう」
「そんなことないよ、もてるよ。私のだし。」
「いいから、先行って鍵でも開けてきてください」
ほとんど持ってくれた荷物達、久しぶりに入った自宅は少しタバコの匂いがする。
ここで、毎日毎日吸ってたからだ。
研二は、部屋では吸わなかったけど。
研二がいなくなってから、毎日ずっと私が吸ってたから染みついたんだ。
「うわ、タバコ臭」
「安室さんはそんなこと言いません」
「というか、暗いな」
「家出る時、カーテン閉めてたからね。あ、どーぞ。散らかってるけど」
「荷物この辺でいいですか?」
「うん、ありがとう。」
「カーテンと窓開けていいですか?」
「わぁ、ありがとう。ついでに掃除機頼む」
「…」
「嘘嘘、そんなに汚くないでしょ。コーヒーで良い?」
「はい。」