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残り香     【DC】【萩原】

第6章 6th


 あなたの恋人になった時、あなたを好きでいようと決めた時。
 あなたが、警察官になると決めたその時から。

 「ねぇ。俺のこと、見て。俺の目、よく見て」

 さっきと同じ、それよりももっと熱を帯びた目。

 「この先、そんな未来はない…って、言い切りたいところではあるんだけどな」
 「…ん」
 「でも、実は俺も考えたことあったよ。もし、俺より先にゆりが手の届かないところに行ったらどうしようって。
 だから止めたんだ、最後まで。俺と、同じ道に進もうとするのを」

 そういえば、ちゃんと聞いた事なかったな。

 そっと、私の髪に触る。

 「想像するだけで、吐きそうだよ。
 迷わず、俺も追うかもしんない。…けど、ゆりは駄目。
 絶対に、俺の後は追うな」

 あぁ、なんて意地悪。

 「…研二はそう言うよね」
 「俺はきっと天国にはいけないから」
 「…」
 「ゆりも知っての通り、松田とやんちゃしたし。ゆり、暗いのも暑いのも、怖いのも苦手だろ。おまけに幽霊も虫も」
 「やっぱりこんな時でも、松なんだ」
 「ははっ、違うって。ちゃんと、閻魔様に怒られて反省して、お釈迦様に助けてもらうよ。蜘蛛の糸みたいにさ」
 「最後糸切られちゃうじゃん」
 「そこは大丈夫、知ったんだろ。俺、困ってる人蹴落としたりしないから、切られないし」
 「結末変わってるじゃんか」
 「うん、変えてやるよ。なにがなんでも、俺が反省してる間1人でいたって暇だろ。
 だから、こっちを謳歌してたくさん楽しんで、俺に沢山お土産話聞かせてくれよ」
 「1人で待ってる方がよっぽどマシだよ、研二がいない今なんて地獄だよ」
 「そこは言っとくから、アイツらに付き合ってもらって」
 「無責任」
 「だって、これはもしも話だろ。んー、強がりで言うならさ、アイツらのうちの誰かならいいよ」
 「何が」
 「ゆりにウエディングドレス着せるの」

 捉えて離さないその視線が、ちくっと胸を刺す。

 「…今の、やだな」
 「わがままだな」
 「…私は、嫌だよ。研二が誰かの隣で、私以外の誰かのためにタキシードきてるの」
 「ふ」
 「笑ないで聞いてよ」
 「可愛いなって思って」
 「怒るよ」
 「怒るなよ、でもやっぱり思ったよ。やっぱり俺が先に行かないとって。
 ゆり、……」
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