• テキストサイズ

残り香     【DC】【萩原】

第6章 6th


 すらすらと躊躇なく出た言葉は、なんとなく自分で言ったことがあるような気がして。

 刃物のように鋭い言葉たちに、こんな気持ちを持っていたことを今更気付く。

 あぁ、やっぱり美化されてたのかもしれない。

 『重いなら言いなよ』

 今更、やめられないけど。

 『いらないなら、早く捨てなよ』

 いっそのこと、その方が楽だったかもしれないね。

 『研二は全然私にやさしくない。私のこと、ちゃんとみてくれない。松とか他の子だけで満足するなら、そう言えばいいじゃん!!
 焦って帰ってこなくていい!どっか行って!もう2度と顔も見たくない!!』
 『ゆり…』

 泣きたいのは私の方なのに、どうして研二がそんな顔するかな。

 『…わかったよ』

 研二の一言にどっと体が重くなる。
 出した言葉は自分からで、必要以上に傷つけたのは私の方なのに、"わかった"の一言で、やっぱり私なんて必要なかったんだと気づいてしまった。

 あぁ、研二。
 あまりにもわかりやすくて、簡単だったよ。

 堪え切れなくて、溢れ出す。
 こんな時に、伝う自分の涙の暖かさが嫌に腹が立つ。

 悔しくて俯いた。
 顔も見たくない、見せたくない。

 何も言わない研二が、静かな音を立てて離れていく。

 本当にあっけない。
 今起きたら、きっと研二はもう隣に居てくれないんだろうな。

 夢でくらい、幸せであってもいいのに。

 どこに居たって、ハッピーエンドには程遠いみたいだ私たちは。
 それでもって、私はいつだって置いていかれる方。

 急に足に力が入らなくなって、へたり込む。

 弱すぎかよ。

 思い出した、こんなことなら卒業式の日に告白してくれた、クラスメイトの男の子を選ぶべきだった。
 私を想ってくれてたんだから、きっと研二みたいに私を何度も泣かせない。

 …今からでも遅くないかな。

 研二以外を想えるはずもなく、全く想像することすらできない。

 なのに研二は出来るんだ。
 器用だから。

 止まらない涙は、何度拭っても床にシミを作ってく。
 鼻を啜っても、何をしても、全然止まらない。
 そのうち体が、水切れを起こした雑草のように、枯れてしまうような気さえしてくる。

 突然ふわっと、何かが私を包む。

 驚いて、ボロボロの顔をあげれば、先程と同じく眉を下げた研二がそこにいた。
/ 52ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp