第6章 6th
夢を見た。
夢だとわかったのは、月明かりに照らされた鏡越しに映った自分が今より幼く見えたからだ。
弱くて、情けない、でも、羨ましいと今は思う。
まだ素直で、純粋だった頃。
あの頃の私なら、今よりもずっと研二に優しくできたのかもしれない。
真っ暗な部屋に1人、だけどまだ研二の残り香。
こんな鮮明だったのかと、あの頃の私に気づかないことを思う。
そんな時ガチャガチャと鍵を開ける音がして、多分夜中だというのにだいぶ慌ただしい。
『ただいま!!』
感じの焦ったような声と共に電気がついた。
『ゆり!!起きてたぁっ』
安心し切ったような顔で研二が言うから、何事かと思えば研二は眉を八の字にしてパチンと両手を合わせる。
『ごめん!!忘れてたわけじゃないんだ!!本当に!!』
その時気づいた、知らない香水の匂いに混じって、くしゃくしゃの上着を持つ腕。見つけたワイシャツの首元にすれた真っ赤なリップの汚れ。
研二に限ってそれはないと思っていたのに、一気に肝が冷えた。
何も言わない私の顔を研二は、窺うように覗き込んでくる。
『ねぇ、ゆり…ごめんって、機嫌なおして?』
浮かんだ二文字。
"浮気"?
疑う余地もなく、目の前の研二の乱れた髪と汗が首元を伝う。
何か言いかける前に察しのいい研二が、私の後ろに何かを見つけて、声を上げる。
『すげぇ、これ!全部ゆりが作ったのかよ!…って、尚更ごめんな、本当に』
"ごめん"の一言で許せるはずもない。
どれだけ研二を想っていてるか。今も変わらずどれだけ、どれだけ愛しているか、この頃の研二はちゃんとわかってるのだろうか。
『絶対に許さない』
『そうだよな…。うん、言い訳するつもりもない』
『私は研二のことずっと想っているのに…』
『うん』
『ずっとずっと、想ってるのに!馬鹿!!』
八の字に下がった眉が、余計にムカつく。
『研二はわからないんだ!!警察官になるのを決めた時も、いくら手先が器用だからって、機械につよいからって!松を追って爆処に行った時も!!
全部研二は私がそばにいなくてもいいって思ってたから、いつも私が追いつけないような場所を目指すんでしょ!!
私は、研二が居ないと息するのだってしんどくて、苦しいのに!!』