第5章 5th
「一緒にいると似てくるって言うもんな」
楽しそうに笑った研二。
私にいくつあるんだろう、研二に似たとこ。
両手で足りないくらいはあるんだろうか。
「研二」
「こーら、火使ってるのに抱きつくなよな」
ねぇ今更だけどさ、私知らなかったよ、器用であれ、こんなに料理ができるなんてさ。
それこそずっと一緒にいてくれたはずなのにね。
「研二いつから料理作れるようになったの?」
「料理ってほどじゃないだろ」
銀色の冷たいボールの中、ミルクと卵、そしてたっぷりの砂糖に隠し味程度に蜂蜜を加えてトロトロにまぜる。
黄色も白も透明もぐちゃぐちゃに混ざったのに、優しい色に変わっていく。
「これなんて、混ぜて浸して焼くだけだし。…まぁ、ねぇちゃんのパシリでやらされてたって感じかなぁ」
ふんわりと柔らかなパンをそれに浸せば、中央の白からやはりその優しい色に染められて、唯一硬さを保ってた耳も絆されて、なんとなく不憫に思った。
もう白には戻れないなんていうのは、感傷に浸りすぎたろうか。
研二が買ってきたバターが、熱々のフライパンの上で熱せられて、溶かされて、喘ぐように声を上げる。
「研二の手は魔法の手だね」
「んー?」
「研二が触るのにいちいち嫉妬しそうになる」
細く長い指。
バランスのいいその掌に、何度もなんども触れられてきたはずなのに、もっともっと触れて欲しくて苦しくなる。
「作ってない時に言ってくれよ」
「今がいいんだもん」
とんだわがまま娘。
娘なんて歳はだいぶ過ぎてしまったかもしれないけど、あの頃と変わらない研二はこんな私を見て、どう思うのかな。
「もう片面、焼き目ついたら終わりだから、もう少し待ってくれよ」
よっと、フライパンを揺らしパンを跳ねらせ、裏返しにするとそのまま綺麗に着地させた。
「焼き上がったらアイスと粉砂糖かけるか」
「そんなオシャレなのうちにあったかな」
「バターと一緒に買ってきたんだよ」
「用意周到」
「ついでにはちみつもかけるか?」
「…甘そう」
「でも、そう言うの好きだろ?」
「アイス溶けちゃう」
「溶けても美味いじゃん」
腰に巻きつけた腕をギュッと締める。
「甘さ、まだ足りない」
「えー?甘そうって言ったじゃねーか」
「たりないってば」