第5章 5th
研二がいなくなって、
私の中で何かがずれて、おかしくなって…
それでも時が勝手に進むから、おかしいまま動いて。
そのせいで歪みができて。
なのに、今更になって研二の優しい手で、諭されて治されてく。
足りないパーツは補うように、
壊れたパーツは補修するように。
「ゆり、怖がらなくても大丈夫。
本当に、まだ大丈夫だから」
ぎゅうっと、優しく抱きしめられれば本当にそんな気がしてくる。
「それとも研二くんといるより、眠る方がすき?」
「んーん…」
「寝るのはもう少し先にしよ。
家事して、お出かけして、お昼ご飯食ってさ、それで眠かったら一緒に昼寝しよーぜ。
今なら研二くんの子守唄付きだけど?」
「お得だね」
「だろ?」
優しい研二の声。
少し癖のある、穏やかな声。
人は声から忘れてくって言うけど、たしかにそうかもしれない。
この声がずっとそばにあったら、私だってもう少しちゃんと………。
「研二、睡眠薬飲もうとしてごめん」
「うん。療法容量守ってお飲みくださいってね!さーて、朝ごはんでも作るかね」
もう一度ここにあるのを教えてくれるように、ぎゅっと力を込めた後、そっと私を離した研二。
「私も作る」
「じゃあ、一緒にやりますか」
浮気を脱いだ後、袖捲りをしたせいで逞しい腕があらわになる。
色白な研二。
さっきまで私を抱きしめていた腕。
お洋服に包まれてた腕。
「そんなにじっと見ないでくれよ、それとも抱きしめられ足りない?」
いたずらに笑ったから、私だってたまにはとし返すように手を広げる。
「たりない」
研二がこう言う不意打ちに、意外と弱いの知ってる。
ほら、今だってグッと来たのか顔を隠して、そっぽ向いてさ。
「私の勝ち?」
なんて言って、そのまま抱きついてみる。
「ゆりに勝った試しねーよ」
私の頭を押し付けるようにぎゅっともう一度抱きしめた研二。
私だって勝てないもん。
「ふふっ、」
「なーに?」
さっきまで寂しかったのに、
ぽっかりと穴が空いたみたいだったのに、
研二がそれを塞ぐ。
傷口を覆う、絆創膏みたいに。
何かあったとき、
研二が1番の特効薬なの。
「我ながらキザだなって思って、研二に似たのかな?」