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残り香     【DC】【萩原】

第4章 4th


 「それでも俺は……、」
 「研二は、解体の一瞬でも私のことは浮かばなかった??
 私より、タバコを吸うことの方が大事だった??」

 きゅっと、服を掴む。
 そこがシワになるのがわかる。

 「私に生きて欲しいって、私を大事にして欲しいって、研二は言うけどさ。
 私だって、研二にだって自分を大切にして欲しかっただけなの」

 研二の手が私の腕を掴む。

 「…ごめん」
 「研二は、あの時どう思って、なにを感じて最期を迎えたの?」
 「…」
 「最後に電話してたの、松だったんだよね?」
 「…俺、本当は少しだけ悟ってたんだ」
 「悟る?」
 「だから、松田に託そうと思った。…でも、言えなかった」

 研二が消えそうな声で言うから。

 「諦めたってこと?」
 「諦めないために、タバコ吸ったんだよ。
 一回深呼吸したかったから」
 「タバコは深呼吸にならないよ」
 「気持ちを落ち着かせたかった」
 「…」
 「防護服は、確かに着なきゃいけないとは思ったさ。でも、解体のスピードを上げるためには着ない方が、…って、こんな話聞きたくないよな」

 ぎゅっと、私を抱きしめる腕はここにあるのに。

 「信じられないだろうけどさ、俺、目が覚めた時お前のそばに居たんだよ。

 いつもの朝みたいに感じた。

 でも、お前に声をかけても反応がなくてさ。
 おかしいと思ったんだよ、俺怒らせるようなことしたかなって。

 腕を掴もうとした時、通り抜けて嫌な予感がした。

 怖くて、触れなくなった」

 研二が私の背中をさする。

 「それでも一緒に居たかったから、ずっとお前についてた。

 不思議なことに腹も減らないし、トイレも催さないし、タバコだってあんなに吸ってたのに、吸いてぇっておもわねぇ」

 私の肩に研二が頭を乗せる。
 サラッとした髪型少しだけくすぐったい。

 「次の日お前は、真っ黒いワンピースを着た。
 見たことないくらい、辛気臭い顔で。
 それからパールのネックレスと、イヤリングをつけた。
 なにが入るかわからないくらいの小さな鞄をもって、中にはティッシュとハンカチ、それから…」

 研二は少し震えてた。

 「自分の死に顔なんざ見るもんじゃねぇな。…すっかりトラウマになっちまったよ」
 「研二」
 「意識したら早かった。今まで見えかったもんまで見えてよ」
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