第4章 4th
「ゆり…、」
熱を帯びた目。
「研二、」
顔にかかる髪を、そっと耳にかけた研二。
こんなに近い距離にいるのに、
「どうして泣くの?」
そんなの自分でもわからない。
「なんでだろ…」
「泣くなよ、泣いてるとこも可愛いけど」
「けんじが、好きだからだよ」
ねぇ、研二。
この時間は一瞬じゃないよね、ずっと続くんだよね?
「俺も好きだよ」
優しい研二が好き。
優しくなくても、研二なら好き。
ずっと伸びてきた、私の涙を拭う指。
冷たいのに、温かい手。
変なの。
「ごめんね、ゆり」
ねぇ、どうして謝るの。
優しいキス。
なのになんでこんなに悲しいの。
体温が離れる。
やめてよ、研二。
そばにいてよ、
影が、離れる。
「痛くなかった?」
「ん」
いたいよ、研二。
ぎゅっと、掴んで皺になる裾。
嘘じゃないのに。
「そっちに行きたい」
呟いた言葉に、どうして研二が顔を歪ませるの?
研二がいない世界で、どう息をすればいいの。
ずっと、聞きたかったんだよ、
「…まだ、だめだよ」
ねぇ、どうしてそんなこと言うの?
「なんで、」
「沢山泣いて、沢山笑って、後悔しないで生きて、そしたらいつか俺が迎えに行くから」
「むりだよ、研二がいてくれないと」
「できるよ、…できる。
ゆりなら、できる」
すっと、研二に手を引かれて、起こされる。
「俺、安心したんだ」
言い聞かせるように言ったのは、誰のため?
「ゆりが、1人じゃなかったことに」
「1人だよ、」
「馬鹿。ちがうだろ、ゼロだって、今日ポアロで会った子達だって、ちゃんとそばにいたじゃねぇか」
「研二がいないじゃん」
こんなのただの、八つ当たり。
「…ゆり、俺がいなくても大丈夫だよ。絶対」
「なんでそんなこと言うの」
「そんなことしか言えないけど、大丈夫だよ」
「ずるいよ」
「そうだよ、ずるくてもなんでも、俺はお前に生きて欲しい。
美味しいもの食べて、楽しく笑って、俺といた時みたいに」
「むりだよ」
「無理じゃないよ、」
ぎゅっと、抱きしめられた体。
本当にそこにあるみたいに、体温を感じるのに…。