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残り香     【DC】【萩原】

第4章 4th


 「その時に、ゆりのこと、好きになったんだよな」
 「その話きいてない」
 「陣平ちゃんと喧嘩したのは俺なのにさ、泣きながら研二をいじめないでーってさ。

 まぁ、別にいじめられてたわけじゃなくて、特撮ヒーローごっこしてただけなんだけど。

 ゆりは俺たちよりいつだって小さかったのに、どんなことにも失敗しても、泣いてもそれでも根気強く諦めないで挑み続けて、最後に勝って笑うんだよな」

 研二が、アルバムから視線を逸らす。
 研二と目が合う。

 「その笑顔がすきで、俺は追いつけないって、思ってた」

 意志の強い声で言うから。

 「…っ、それはなんていうか。いくら何でも、あまりにも美化されすぎじゃない?」

 照れ隠しでそう言うと、研二も照れたのか、次の瞬間にはアルバムに視線が戻ってた。

 「美化でも何でもいいんだよ、思い出なんてそんなもん」

 だから私も同じように、視線を戻す。

 「でも残念でした」
 「何が?」
 「誕生日的に?私の方が先に産まれてるし、研二が生まれた瞬間からすきだもん。私の方が先でしょ」
 「何その負けず嫌い、…そっか、でもそう言われると」
 「なに?」
 「この世界に、ゆりがいないってこと、俺は産まれた時から知らないんだよな」
 「キザ」
 「先に言い出したのは、そっちでしょ。つーか、自我芽生える前の持ち出すのはずりぃって。なら、俺は、産まれる前どころか前世から好きだぜ」
 「研二の前世ってなに」

 意地悪く聞けば、それに戯けて返す研二。

 「ゆりのカレシ♡」
 「今世と変わんないじゃん」

 研二の今は、今世なのか前世なのかそもそも分からないけど。

 「来世も、さ来世も変わんないよ」
 「地球が終わっても?…って、何かで読んだセリフだ」
 「ゆりと初めて見た映画の最後のセリフだよ」
 「そんなのあったっけ?」
 「あったよ、ゆり号泣してたじゃん。そんで、帰りに俺が買った肉まん半分こして食べて、やっと泣き止んだ」
 「よく憶えてるね」
 「憶えてるよ、ゆりのこと。俺が忘れるわけないでしょ」

 確信を持って言うから。

 「うん、」

 うなづくしか出来ないじゃないか。

 「ゆりは?いつ俺を好きになったの?」
 「気付いたら、好きになってた」
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