第3章 3rd
「俺の服、取ってあったんだ」
「未練がましく、たまに借りてる。…でも、もう研二の匂いしないけど」
「はは、そっか」
片付けられなかった研二の私物も、今は取っておいて良かったと思う。
「研二、それ着替えたらどうする?ポアロ行く?」
「だなァ。それから、ゆっくり散歩したら映画でも見るか」
「うんっ」
まるであの頃に戻ったみたいに、オシャレをして2人で手を繋いでデートをする。
出かける前につけた香水で、研二の体温が戻ってきた気がする。
「研二、なんかあったかくなった?」
「どうだろうな。自分ではわからねぇや。でも、ゆりがそう思うならそうなんだろーな」
手を繋いでいても、それ以上に繋がっていたいと思う。
7年で忘れかけてたことも、すっかりおもいだした。
「ゆり」
「ん?」
「帰ったら家の時計、直そうか」
「どうしていま?」
「あの公園の時計ズレてんの見て思い出した」
「はは、研二らしい。うん、もう仕事行くことも、しばらくはないしね。」
研二と2人で歩くのは楽しくて、ポアロまでの道はあっという間で。
「安室さん、外掃いてるね」
「よくやってるよな、アイツも」
「頑張り屋さんだからね」
違いないといって、小さい箒に身をかがめてる安室さんに近づく。
「やっほー、透ちゃん。精が出るねぇ」
研二の声に、顔を上げた安室さん。
ほっぺにガーゼが貼ってある。
「2人とも、来たんですか?」
「うん」
「萩原さん、外に出て平気なんですか?」
「もちのろーん♪働いてる透ちゃんのこと、実際に見たかったしな。様になってるじゃねぇの、喫茶店の店員さんも」
「ほっぺどうしたの?」
「スーパーに来てた強盗にやられてしまったんです」
「無茶もほどほどにしねぇと、俺みたいになるぞ」
戯けて言ったけど、そんなこと冗談でも言って欲しくないと思っていると、ゼロが笑顔の裏でピキッとキレた。
アニメにしたらこめかみの部分に、絵文字の怒りマークが浮かんでいるんだろう。
「ゆりさんは仲へどーぞ。あなたはそこで反省しててください」
ゼロが私の手を引くと、するっと繋いだ手を研二が離した。
…と、思うと、バックハグの如く私の首に腕をまわす。
「"安室さん"には、やらねぇよ」