第7章 思えば私に対してもあんなだった
「中学にもなりゃ、物事の善し悪しの区別は付くだろ? まあ、目の前にEカップの乳がありゃ、ムラっとくんのも分かんねえでもないけどな。 でも、これはオレんだから」
あ、これはいつものタクマさんだ。
卓磨くんがぽかんと口を開けそんな彼を見上げる。
この豹変ぶりを目にすれば無理もないと思うんだけど。 無言の卓磨くんにイラッとした様子で、タクマさんが腕を組む。
「お前はお前の女探して存分に触りゃいいだろが。 見たとこ別にツラも悪くねんだし。 分かったか? 言いたいことはそんだけだ。 じゃあな」
……そしてクルっと踵を向けたと思うと部屋を出た廊下の出会い頭で、お盆を持った卓磨さんのお母さんに「あ、用事思い出しましたんで。 お邪魔しました」などと言い、また作り笑顔で玄関を歩いてく。
「た、タクマさん……」
後を追って家を出た私に気付き振り向いた彼が歩調を弛めた。
「ああ、悪い」
「……タクマさんって、二重人格なの?」
助手席に乗りシートベルトを締めてる私に、髪をいつものように下ろしながらタクマさんが言う。
「舐めんな。 役所は頭下げんのが仕事だ。 で、親は子供庇うのが仕事な。 マトモにやり合う必要ねえから」
「でも、卓磨くんに文句言ってたよね。 子供じゃあるまいしって言ってたわりに?」
するとふと手を止め、思い付いたように目線をあげる。
「……ん? ……あれ。 そういや……忘れてたな」
「ぷっ……! タクマさん…ってば、ふふっ、おっかしい」
職場にゃ子供はいねえから、つい。 バツが悪そうなタクマさんに私が思わず吹き出し笑ってしまう。
それから車が走り出して家に着くまで、思い出しては笑いがこぼれた。
「あー……クビんなったら悪ぃな」
「いいよ、別に。 ふふ…っ、そんなの」
少なくともあの母親はタクマさん……というか、こちらのことを信頼したっぽいし。
そうなら、卓磨くんが私を断れば済むということになるもの。
それは私の力不足もあると思うし大ごとにならなければ私としては、それでいい。
呆気に取られた表情の小さなタクマくんを思い返しては、私はクスッと笑った。