第10章 終章 わたしの心の青海原
「綾乃」
呼ばれて、手を繋いだまま私の少しあとを歩いていた彼の方に振り向くとタクマさんがなにかを探すように視線をさ迷わせてから、ゆっくりと口を開く。
「今まで飽きもせず、想ってくれてて感謝してる。 こっちがオマエに飽きる日は100パーセント来ねぇから……まあ……オレの綾乃のままでいろ」
『オレの綾乃のままで』
彼の言葉。
言って欲しいとお願いしたわけじゃない。
彼が私のために選んで求めてくれた初めての告白。
特にどうしろということもなく、そばにいれば良いのだと。
臆病でなくただ優しい彼がそんな風に私を望んでくれた。
タクマさんの顔が歪んで私の視界がぼやけていく。
「……って、おい」
それは形のない、世界にひとつしかないエンゲージリングのように思えた。
私にとって例えば結婚式とか、そんなものよりもなによりもなによりも尊いもの。
「ったくまた、泣くなよ。 いじめてるワケじゃねぇぞ……」
『泣くな』いつもはそうきつく言うはずの彼が困った様子で私に腕を回して胸に包んでくれた。
これからは私の泣く場所はここになるのかもしれない、なんて思う。
あったかくて大好きな私のタクマさん。
それはほんのもう数年後の未来。
朝も夜も潮騒を聴きながら、私は青海原に抱かれる夢をみる。
[完]