第7章 思えば私に対してもあんなだった
卓摩くんの家には、私から昨日連絡をしておいた。
先方としてはおそらく先日のことについてのクレームかなにかだと構えてたんだろう。
玄関先に立っている目の前の二人は、すっかり拍子抜けしてる様子だ。
「えっと、あの……そちらは?」
「森本綾乃さんとお付き合いしている者で、伊東拓真といいます。 丁度卓摩くんと同じ名前ですね」
誰なの、この爽やかな人?
いや。 彼の本性を知ってる私としてはスピリチュアルカウンセラー並みに胡散臭いとしか思えない。
恐縮してお菓子の紙袋を受け取った母親が、戸惑いがちに私たちを見ている。
「まあま……ちょっとした行き違いでしたのに。 そんなに気を使っていただいて……どうぞどうぞ、中へ入ってお茶でも」
「彼女もそそっかしいところありますから。 もしかして、世間でも良くあることかもしれませんよねえ」
なぜかほんのりと顔を赤らめ、そそと家の中に招き入れてくれた卓磨くんのお母さん。
……でも、私、納得いかない。
「卓磨も、森本さんの教え方は分かりやすいって、よく褒めていて。 休み中はいつもあそこの派遣先に来ていただいてるのですけど、この子がそう言うのは初めてで」
そんな風に私たちに先立って歩いていた卓磨くんのお母さんが彼の部屋に私たちを通し、「お茶を持ってきますね」とまた出て行った。
「タクマさん、一体」
困惑して彼に話しかけようとする私を制して、タクマさんが卓磨くんに向き直る。
あ、作り笑顔が少し崩れてる。
そんなタクマさんに少しだけ卓磨くんが後ずさった。
「話は聞いた。 けど、彼女はオレの大事な人だ。 もしも綾乃が気に食わないならまた話は別だが、彼女を悲しませるようなことは止めて欲しい」
「………俺は、別に何もしてない…し」
何を、とはハッキリと口にしないタクマさんに対し、卓磨くんがどこか決まりが悪そうにモゴモゴと口ごもる。