第7章 思えば私に対してもあんなだった
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もうそろそろ九月にもなろうというのに、今朝も相変わらずの暑さ。
タクマさんが住んでいる根川市は海ぎわとはいえ、車で30分も走れば避暑にもなるほど過ごしやすい所だ。
そんな場所から急にまたムシムシとした都会に戻れば、体調を崩すのも無理はなかったのかもしれない。
卓摩くんのお家に訪問するのは午前中になった。
その方が印象好いからなあ、というのはタクマさんの意見。
道中の和菓子屋さんでちょっとした贈答用のお菓子を購入したタクマさんの意図が分からず、首を傾げて訊いてみた。
「それで、私はどうすればいいのかな」
「アルバイト続けたいんだろ? したら、フツーに頭下げればいいんじゃね」
「え? 私が?」
どっちかというと、被害者なのに?
「オレがお前の代わりに文句でも言えって? ガキじゃあるまいし」
……それは、そうなんだけど。
私、悪くないと思うんだけどなあ。
意外なタクマさんの発言だったが、車は早々に家庭教師先のおうちに到着し、疑心暗鬼になりつつも私は彼のあとについてった。
インターホンを鳴らし背後の私に気付いたものの見慣れない訪問者として、卓磨くんの母親に訝しげな表情を向けられたタクマさんがニコリと笑う。
「先日はお騒がせして申し訳ございませんでした。 あと、こちらお詫びと言ってはなんですが」
「…………」
驚きのあまりに声が出なかった。
だって初めて見た。
タクマさんの作り笑顔100%。
ちなみに今日の彼は軽く髪を後ろに流し、白いシャツも清潔感いっぱいである。