第6章 気になる彼の形と私の色
「前に少し言ったか。 オマエは普段怒らない。 そうして当然な時にさえ、怒らない。 その分、溜め込んで泣く癖がある。 こんな親の元で育って、人を傷付ける方法を思い付かないんだろ。 そういうのはオマエの強さだとオレは思うけど、そんなら、泣く前に親やオレを頼れ」
泣くのが強いの?
タクマさんの言ったことの最後の方は、よく分からなかった。
分からなかったけど、父と母が顔を見合わせて、ふっ、と、とても柔らかな視線を交わし合う。
……ああ、これもある意味、恥ずかしい。
これから始まるであろう光景を想像し、私は目を伏せた。
「……じゃあまあ、そういうことで」
母を伴った父が連れ立ち部屋を出ていこうとする。
ドア口でふと振り返った母がタクマさんに声をかけた。
「拓真さん。 って、私も呼んでいいかしら。 先ほどもお願いしたけど休み中はよければここで、綾乃のそばに付いてあげてくれる? 昔はキツそうな男の子のイメージしか無かったから、見違えたけど……やっぱり、裕之さんの見る目は間違いないみたい」
「その中でも、佐和子さんを選んだ私の審美眼を一等賞賛して欲しいものだけどね」
躊躇いがちに顔を伏せようとする佐和子(40)の頬にそっと触れる裕之(48)。
見つめ合う、二人。
「こんな私でも……?」
「もちろんだ」
森本裕之と佐和子夫妻が、体を寄せ合いそのまま二人の世界に入りながら部屋を出て行き、あとにタクマさんと私が取り残された。
「……真面目か……アレ」
「……ああなると私のことも時々忘れ去られるんだよ」
「なんか、合点いった。 オマエのこと」
真剣な表情で頷く、タクマさんだった。