第6章 気になる彼の形と私の色
「つ、爪? あの……お母さ」
「親知らずを麻酔無しで抜いてあげるとか、ふふ。 罪を思い知らせるための人道的な方法はいくらでもあるのに……」
「お、お母さん?」
中世の拷問だろうか。
そういえば昔から、本当に怒ると怖いのは母である。
これはむしろ父に相談した方が良かったのかもしれない。
「とにかく、この件はとりあえずはお母さんに預けておきなさい。 今晩はお父さんも帰りが遅いから……明日からはデートなんでしょう? 今日は早く休みなさい、ね?」
そんな母に曖昧に頷き少し心が落ち着いた。
本当はタクマさんにも言った方が良いのだろうけど、そんな込みいった話は会ってからにしようと思った。
母とタクマさんは、父程は面識がないみたいで、「見たら思い出すかも? でも、お父さんが選んだ人だものね」そう言って、タクマさんに会うのを楽しみにしている様子だった。
****
次の日は寝不足のせいか、なんとなく気分も浮かないままチョコレート屋さんのアルバイトに出掛けた。
それにしても、なんだって今年の残暑はこんなに過ごしづらいんだろう。
蝉の音さえもう、元気がなく疎らに耳に届く。
通りのショーウインドウで自分をちらっと見ると、なんだか姿勢も悪いし疲れてるような?
こんなんじゃ駄目だ。
せっかくタクマさんに会えるっていうのに。
バイト先に到着してバシャバシャと勢いよく顔を洗い、そしたらちょっとスッキリした。
「……森本さん?? 何してるの」
背後から話しかけられてふと顔を上げると、鏡越しにこないだ話しかけられたバイト仲間の子が映っていた。
「……? 顔、洗ってて」
「それ顔拭いてるの、ハンカチ? 髪と服ビショビショだしファンデ付けてないの?」
「うーん? トイレットペーパーはさすがに、顔に付いちゃうよね?」
白いポロポロのが。
暑いからそのうち、乾くと思うんだけど。
日焼け止めはしてるけどメイクもしてないし。