第6章 気になる彼の形と私の色
「ち、ちょっとぶつかって、びっくりしただけ」大袈裟なんだよ、森本センセは。
そんな風に卓摩くんが誤魔化そうとするので、「それは……」と喉元まで言葉が出かけて言い淀む。
まだ彼は子供だからとか、大ごとになったらとか。そんな考えも頭を掠めたけど。
「卓摩くんが、急に私の胸を掴んできたんです」
はっきりとそう言った。
*****
「…………」
帰りの私は独り言もため息も出ず、とぼとぼと、夜道を歩いていた。
好きな子はあまりいないと思うけど、そもそも私は男性に体を触られるのは昔から苦手だ。
小さい頃にお兄ちゃんによくいじめられてたのが大きいのかもしれない。
思えば、学校行事のフォークダンスも嫌だったもの。
いくら相手は中学生といってももう背丈も大きいし、私からすると十分怖かった。
無造作にきつく掴まれた途端、産毛まで逆立つような嫌悪感を感じた。
それでも卓摩くんはずっと「そんなことしてない。 思い違いだ」
彼の母親も、「卓摩のいう通り先生の気のせいか、ちょっとしたイタズラじゃないのかしら」
そんな風に、なあなあに済まされてしまった。
……それで帰り道に悩んだ挙句、私は家に帰ってから母に相談した。
なんでもない振りをして、このままアルバイトを続けるのは、自分には無理なような気がしたからだ。
私の話を聞いて母が、元々キツめの顔立ちに硬い表情を浮かべてじっと黙り込んだ。
そんな母の様子を見て、そういえば、あの子の家に父親は居ない。 そんな家族構成を聞いていたのを思い出した。
「……あんまり大袈裟にしたくないから、お父さんには黙ってて欲しいんだけど」
「私の娘が侮辱されたのに? お母さんは、大袈裟にしない、なんてなんの解決にもならないと思うわ」
ソファに座っている私の前に跪き、手を取った母が噛んで含めるように私に言い聞かせてくる。
「たとえば、子供だからって人殺ししていいってわけでもないでしょう?」
「そう、だけど……」
「むしろ今から更生しとかなきゃタチが悪い…そう、爪の20本でもはがすとか」