第6章 気になる彼の形と私の色
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明日に週末を控え、ますますエネルギッシュに過ごしている私だけれども実はちょっとした困りごとがある。
「加減法と代入法の区別って、どうやってつければいいの?」
そんな風に参考書を手に連立方程式を私に訊いてきたのは、今日が訪問二回目となる家庭教師先の、卓摩くんという子だ。
活発そうな印象の中学二年生の男の子。
最初はタクマさんと漢字違いで、へえって思ったんだけど。
「最初は式を観察するんだよ。 解きやすい形にするために。 式が持ってる、一個一個あるクセを見分けるの。 そこを徹底した方が」
「ふうん?」
寄せてきた肩が近く、それだけならまだしも、時々彼の肘が胸に当たるとか。
……最初は偶然かと思って避けていたんだけど、その分また近寄ってきて、今日もずっとこんな調子。
「卓摩くん、体が当たって気が散るから、もう少し離れてくれるかな?」
「へっ? 森本センセが気にしすぎなんじゃね」
どこかわざとらしい表情をするそんな彼にため息をつく。
彼の向かい側に回ってから、プリントにチェックをして彼に渡した。
「マルつけた問題に、全部のクセのパターンがあると思う。 式の整理だけやってみよ」
「ハーイ……」
しぶしぶといった感じでそれに取り掛かる卓摩くん。
ブルーで統一された部屋にはゲーム用のマルチディスプレイなどがあり、かと思えば、有名サッカーチームのユニフォーム。
いかにも男の子の部屋といった雰囲気だ。
丸テーブルにノートを広げ、正座をして首を捻っている。
悪い子ではないんだけどなあ。
ちなみに、私の大学の専攻は理学部である。
タクマさんは「まじか。 オマエの頭の回転ニブ…いや、記憶力いいから文系かと思ってた」などと言っていた。
でも自分が理数系なのは単純に両親の影響もあるけど、私の記憶力はタクマさんで使い果たしているからだと、個人的に思っている。
歴史やら英語に配分される脳みそは私には残ってないのだ。