第6章 気になる彼の形と私の色
……タクマさんはそれ以降きっと、家に帰ってあったかいご飯が待ってる生活なんて知らないんだろう。
学校帰りに買い物をして。
自分の父親にご飯を作って。
昔のタクマさんは、せっかく自分が用意した、床に散らばったご飯をどんな思いで片付けたんだろう?
「鼻炎か? は、なにまた泣いてんだ? 電話でもまさかの綾乃か」
「わっ……わた、しはここにいるからね。 ずっと…どこにも行かないからねっ…?」
「どこの青山テルマだよ……」
とにかく週末仕事上がったら、金曜にそっち迎えに行くから。 そう言われて、先手を打たれた気分になった。
だってそれ、私が考えてたのに。
それともタクマさんも、会いたい量は私と同じってことかな?
そんなことを思い付くとうれしくって、声が弾んだ。
「タクマさんも私に会いたい?」
「……そういう質問は好きじゃねえな」
「そうなんだ? 私はタクマさんに会いたいよ。 それで、タクマさんがそんな私を思い出してうれしくなってくれたら、私はもっとずっと、うれしいだろうなあって」
「……何がなんだかもう分かんねえけど、とりあえず嬉しいんだな? 」
「うん!」
小さな笑いが止まらない様子で、低く篭った声のタクマさん。
口元に拳を当てて抑え気味に笑顔の彼の顔が想像出来る。
「そんなら、オレも会いたいって言っとく」
ぎゅってしたいなあ。 そんな気持ちを押し殺しながら、通話を切ったあとも私は幸せな気持ちで眠りについた。