第6章 気になる彼の形と私の色
「……まあ、家は確かに貧乏ではねえんだし、悪いことじゃねえだろ。 人生案外、ハッタリは大事だよな」
家庭教師先での話をして、育ちのいいお嬢さんなんかじゃないんだけどなあ。 そう唸る私にその夜に電話をしてた、タクマさんがスマホの向こうで笑った。
「タクマさんも、私のことそう思う?」
帰ったなり、色んな人と会いすぎて疲れたんだろうか。
ずっと熱っぽい感じのする頬に手を当てた。
「今さらか。 スレちゃねえけど、素朴ってタイプだろ。 こっちじゃ大概ジャージみたいなカッコしてるし。 なんにもしねえで、砂浜で何時間もボーッとしてる女なんか見たことねえな」
うーん。
やっぱりタクマさんと話してると安心する。
褒められてるわけでもないのにほっと、心がほぐれてくような。
「ところで、バイト忙しそうだから遠慮してたけど。 週末か来週末空いてるか?」
「……うんっ! 会えるの!?」
アルバイトは大事。
けれど、それはタクマさんがいるからだ。
そして車を持って昼で講義が終わったら。
そのまま向こうに行って、仕事帰りの彼のためにご飯を作って待ったりして。
サンキュ、助かる。 綾乃はいい嫁さんになれるななんて。 褒められたり、撫でてくれたり。
「ん、なんだ? 気持ち悪い笑い声が」
でも、ふと、こんな彼の言葉も思い出したりする。
『──────中学ん時母親が事故で死んで』