第5章 侵食を繰り返す荒波の記憶
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あれこれ思い出してつい、寝起きをぼんやりと過ごしてしまった。
時計を見るともうお昼の12時過ぎを指している。
今日は平日だけど、タクマさんは今お昼休みのはずだ。
『アルバイト行ってくるね!』
『今日もか? 無理すんなよ』
『はい』
ちゃんとした話をするときは会ってから。 そう言っていたタクマさんとのやり取りはいつも短い。
それが助かっている。
ここにタクマさんが居ないのは去年まではごくフツーだったのに。
今年の私は、まるで体の一部が切り取られたみたい。
彼と過ごしたこれまでで一番長い三日間。
初めての、私の彼。
きっと私は今、寂しいのだと思う。
優しくて。
強くって。
少しだけ口が悪い。
はしゃぎすぎない。
寝てるとかわいい。
彼女を大事にする。
色んなキスを知ってる。
やっぱりとても大好きなタクマさん。
なんで彼に触れられると体があんなに反応するのかと不思議に思った。
でも、それは私の心とおんなじ。
タクマさんの言葉で一喜一憂する私は、きっと感情の大きな束を彼に捕まえられてる。
好きだから優しくしたい。
その想いと同じように触れたいし触れられたいのだと、そう思う。
……自分の心や体の記憶が、そこかしこに染み入ってしまったタクマさんを求めて疼き出す、その前に。
こんな気持ちもきっと幸せだからこそなんだろうと。 私はそう言い聞かせるようにしてる。