第5章 侵食を繰り返す荒波の記憶
今までで一番長い口付けだった。
与え合う、というより奪うかのように激しく。
硬くすぼまれた舌が唇の隙間に入り込み、口内をまさぐっては押し付け、扱くかのように擦り上げ、かと思えば柔らかく撫でてては余韻を慰める。
私の背中や腰が浮くたびに、圧迫される乳房は衣服を通し、熱く硬い胸に形を変えては摺り潰されて。
背中から後頭部を変則的に往復する彼の腕は強くて、痛いぐらい。
求められる。
歯茎や舌だけじゃなくって、どちらのものともつかない睡液が通り過ぎる喉までも。
まるで渇きを満たすように、深くまで。
その彼が、僅かに与えてくれる合間から漏れる、私の喘ぎに似た声も掻き消される。
……そして絶頂を迎えるときと同じように足先までピンと伸び、私の全身が細かく震えた。
ただただ圧倒されて、私は抗うことも出来ず意識を失いかけるほどに……それに呑まれた。
「……怖いか」
やっと顔を離したタクマさんが私の肩に回していた腕の力を緩め、どこか熱を帯びた目を落とす。
怖く…ない。 打ち震える唇の間からそう答えた私の声は、空気に吸い込まれて音にならなかった。
心なしか彼の表情が柔らかくなり、体を私の横にずらしたタクマさんは、私が落ち着くまで汗で湿った髪を撫で続けてくれた。
あんなキスをしたというのに、それからのタクマさんはいつも通りだった。
また別荘に戻り彼が焼いてくれたバーベキューをいただいて、駅まで送って貰って帰途に着いた。
……けれども一日中、私の頭はどこかフワフワしていて、使いものにならなかった。