第5章 侵食を繰り返す荒波の記憶
「待ったか」
「ううん。 あの、今」
ペットボトルを持って戻ってきたタクマさんとまた歩き出した。
浜辺に出る階段に差し掛かり、石段を降りていく。
「イズミさんって女の人知ってる? 髪の長い細そうな」
「誰……仲間内にはいねぇけど。 聞いたことあるような。 タケんとこの客じゃね? いちいち覚えてねぇな。 なんかあったか」
「タクマさんのこと言ってて? なんだか褒めてるような、けなしてるような」
「フーン……」
特に気に留める様子もなくタクマさんが先に砂の地面を踏みしめる。
「なんか……いい体してるとか?」
「気持ち悪ぃ、なんだソレ」
私の髪が潮風にひるがえり、眼前の拓けた視界に目を細めた。
「痴漢には気を付けてね」
「ぷッ……了解」
タクマさんのことを本当に知ってるなら、『つまんない』なんて言わないもの。
加えて、そんな評価を口に出す人と彼が深い関係のわけないし。
ただ、あの挑発的な物言いからして、タクマさんに好意を抱いてるらしいということは分かる。
「ダンマリなってどうした? 言っとくけど、なんもねぇぞ」
さすがにこの時間になると陽射しが強い。
帽子のつばを抑え、もう直視出来ない陽を遮った。
「そんなのは気にしないよ。 タクマさんって、モテるんだなあって感心してたんだよ」
「学生でもあるまいし。 モテるのはオレじゃなくてタケな。 だらしないヤツじゃねえけど商売柄、ちっと煮え切らねえつか」
それは分かりやすく分かる。
長身イケメンの洒落たカフェの店主。
あんな人の彼女は大変なんだろうな。