第5章 侵食を繰り返す荒波の記憶
二人揃って朝寝坊した今朝は遅い時間に海辺へと向かう。
スッキリと薄青色に晴れた空に、いわし雲。
紺碧の潮の音を聴きながら色んな話をする。
今度はタクマさんのお家に行ってみたいとか。
だけど私の別荘の方が妙に寛げるとはタクマさんの意見。
私のお兄ちゃんが未だに意地悪だとか。
そういや生意気そうなツラしてたな。 なんて言うから、今もだよ? 苦々しい顔をすると彼が笑う。
「ちょっと水買ってくる」と、途中の商店に寄る彼を道路脇の歩道で待った。
「タケが言ってたのって、あの子かな?」
「ちょっ、イズミ。 声大っき」
タケさん?
声の方向に振り向くと、五メートル程向こうに赤い車が止まっていた。
目を凝らすと、女性が二人乗ってるようだった。
周りを見ても人は居なかったので軽く会釈をしてみると、助手席の方の女性がそれに応じてくれた。
こないだの、タクマさんのお仲間の人かなあ?
そう思い付いたが声が少し違うように思えた。
「若い時って、大人に憧れる時期あるからねえ」
私に言ってるんだろうか?
でも、この人たちも若そうだけど。
「イズミ、止めなよ」
「確かにタクマはいい体してるし。 タケと違ってつまんないけど」
「……もう、なんなの? 行こうよ」
なんというか。
リアクションに困った。
困ってるうちに車のエンジンがかかり、私の脇を通り過ぎていく。
イズミさんというらしき運転席の人は私の方を見向きもせず。
助手席の方の女性は当惑顔で、こちらに詫びるようにまた会釈をした。
「…………」
ふむ。
こういうのって田舎独特なんだなあ。
情報の伝わるのの早さとか、狭さとか。
私もここに住んだら気を付けよう。