第5章 侵食を繰り返す荒波の記憶
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なにかに突き飛ばされるみたいな性急さに押されて、私は目を大きく見開いた。
「…………っは」
手の先が冷たい。
お盆の連休が終わってから一週間。
東京の、自宅で迎えた朝はなんともいえない目覚めだった。
「な、なんで……夢」
タクマさんが、あんなことを私にするはずないのに。
……ないのかな?
今となってはよく分からない。
でも、最近私がよくみる夢。
優しいにしろ、そうでないにしろ、決まって彼に触れられる夢……どうやら今朝は後者の方みたいだけど。
タクマさんのいる、海の町から帰ってきてからずっとこんな調子だ。
……それに。
冷えた体と汗ばんだ額。
それから、足の間に感じる湿り。
あんなでも私はこうなるんだ。
「…………」
躊躇いがちに、そこに手を伸ばす。
ぬめりに浸した自分の指は彼とは程遠い。
こうしていても、あの時の自分ほど高まることはなくって。
最初は心。
そして戸惑い気味に体が追い付いてきた。
両方とも、知らなかった頃にはもう戻れない。
それは今の私にとっては底無しに深いような気がして、そう思うと怖くなる。
タクマさんに会いたいな。
彼の名をそっと呟き、それと同時に体が細かに緊張と弛緩を繰り返した。
それからまた、乱れたままのベッドの隙間に身を投げる。
「……変だなあ」
今朝は悪い夢のせいかなんだか頭も痛い。
連休が終わって、私は残りの夏休みを主にアルバイトに使うことにした。
彼の住んでいる根川市という都内から往復約一万円近くの旅費は、学生にとってはやはり辛いからだ。
いつもの自分を取り戻そうと私は海の町で過ごした最後の日に思いを馳せた。