第5章 侵食を繰り返す荒波の記憶
「た……クマさん、あの」
両方の膝を立て、後ずさる私の背中がベッドボードに当たった。
たとえば鷹かなにかに上空から狙われている兎は、こんな気分なんだろうか。
「……さっきの続き。 全部触って確認するって言ってただろ?」
目の前では、膝立ちになった彼が私を見下ろしている。
一際冷たい印象を放つ瞳が青白い炎のようだと思う。
これは本当に、彼なんだろうか?
怖いと思った。
それなのに、そこから私は目を逸らせない。
彼から伸びた腕に、震えながらも引き寄せられる。
肩を抱いて、タクマさんが私の手を取る。
「……指」
紙切れがヒラリと滑るほどの、簡単に振り払えそうな力加減で、私に触れていく。
「二の腕、脇から……肩」
ひと言、ひと言呟いて、その通りに、その箇所に彼の指先や手のひらが合わさる。
小さな火を灯していくように、私の肌を焼いていく熱の道。
首筋、耳……頬……唇
息苦しくて浅い呼吸を繰り返し、規則的な呪文みたいな言葉が頭に響いてく。
口の中に入れられた指が舌にまで触れてきてわたしの睡液と戯れ口を塞いでいた。
胸。 乳首。 腰。 背中。 尻。 臍。
気の遠くなる時間。
弄ばれる続ける私のカラダの支配権はとっくに彼にある。
もう、止めて。 喘ぎ声の合間に心のなかでそう何度も懇願した。
それが聞こえていないのか、両膝の裏をすくった彼が、易々とそれを左右に割り開く。