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朝凪のくちづけ【R18】

第4章 半径一メートルの密度



撫でてくれるのかなあ。 そう思ってじっとしてると、頭の上から髪に沿って手が滑る。
昔はよくこうやって撫でてくれたっけ。
その感触が気持ちよくって、目を閉じる。

そして手を降ろした際に、すっと指が耳を掠った。



「ひゃ…」



びっくりして、それと同時にタクマさんが手を引っ込めた。
ついでに、私から視線を外して前を向いてしまった。

あれ?
まるで私を遠ざけようとするような。
こんな彼を、今までに何度か見たことがある。



「タクマさん……? あのね、今気付いたんだけど」


「ん?」


「私のお父さんのこと、信用してないなんて嘘だよね? よく良く考えれば、そんな人に身の上なんて話さないし、自分がどう思われるかなんて、普段からタクマさんは気にしないでしょ?」


人見知りというのは少し違うけど、タクマさんはフレンドリーなタイプじゃないから、きっと何度か言葉を交わして、仲良くなった後に話をしたんだろうと推測した。



「なんで私と……距離を置きたがるの?」


「……半分は、本当。 あの迂闊そうなオヤジのことだから、心配した母親からオマエが怒られるんじゃねぇかとか。 それに、親公認だからハイそうですかって、そんなもんじゃないだろ」


「大丈夫だよ。 お母さんイケメンには激甘だから」


「なんだ…そりゃ」



なんか、引っかかる。
話してるのに全然こっち見ないし。


「タクマくん。 ハッキリ言わないと怒りますよ?」


先ほどの彼の言葉を借りるとこうなる。
するとタクマさんは思いがけずという風に小さく笑って、やっと私の方に顔を向けてくれた。



「……オマエってさ、喜怒哀楽激しいけど、『怒』が殆ど無いのな。 昔っから」


「ん……? そう、かな」


「そういうとこ、好きだと思う。 一緒に居て鬱屈した気分なったためしなんてないし、異性云々の前に人間として」


「そうなの?」



これは、普段は滅多に褒めない彼の、貴重な言葉。
あとからスマホに書き留めておこう。


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