第4章 半径一メートルの密度
撫でてくれるのかなあ。 そう思ってじっとしてると、頭の上から髪に沿って手が滑る。
昔はよくこうやって撫でてくれたっけ。
その感触が気持ちよくって、目を閉じる。
そして手を降ろした際に、すっと指が耳を掠った。
「ひゃ…」
びっくりして、それと同時にタクマさんが手を引っ込めた。
ついでに、私から視線を外して前を向いてしまった。
あれ?
まるで私を遠ざけようとするような。
こんな彼を、今までに何度か見たことがある。
「タクマさん……? あのね、今気付いたんだけど」
「ん?」
「私のお父さんのこと、信用してないなんて嘘だよね? よく良く考えれば、そんな人に身の上なんて話さないし、自分がどう思われるかなんて、普段からタクマさんは気にしないでしょ?」
人見知りというのは少し違うけど、タクマさんはフレンドリーなタイプじゃないから、きっと何度か言葉を交わして、仲良くなった後に話をしたんだろうと推測した。
「なんで私と……距離を置きたがるの?」
「……半分は、本当。 あの迂闊そうなオヤジのことだから、心配した母親からオマエが怒られるんじゃねぇかとか。 それに、親公認だからハイそうですかって、そんなもんじゃないだろ」
「大丈夫だよ。 お母さんイケメンには激甘だから」
「なんだ…そりゃ」
なんか、引っかかる。
話してるのに全然こっち見ないし。
「タクマくん。 ハッキリ言わないと怒りますよ?」
先ほどの彼の言葉を借りるとこうなる。
するとタクマさんは思いがけずという風に小さく笑って、やっと私の方に顔を向けてくれた。
「……オマエってさ、喜怒哀楽激しいけど、『怒』が殆ど無いのな。 昔っから」
「ん……? そう、かな」
「そういうとこ、好きだと思う。 一緒に居て鬱屈した気分なったためしなんてないし、異性云々の前に人間として」
「そうなの?」
これは、普段は滅多に褒めない彼の、貴重な言葉。
あとからスマホに書き留めておこう。