第4章 半径一メートルの密度
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……ポトン。
今朝の雨つゆで光った水粒が、木の葉っぱを傾けて、滴る。
それらをたくわえた下の葉が苦しそうに、吹く夏風に身を震わせた。
蒸し暑い真夏の昼下がり。
昼食後に私はテラスに降り、しゃがんでそれをじっと見詰めていた。
私を受け入れてくれたのが彼の優しさだとしても、それでもいい。
そう思ってた。
だけど今は、そんな考えはとっても傲慢なんじゃないかって。
それでもいい、なんて。 まるで私が被害者みたいに。
「でも、ちゃんと両思いだもん……」
好きだって、言ってくれた。
ついと指を伸ばし、水がたまって堪えている葉っぱをそっと弾いた。
ボートみたいになってた葉がしなり、溢れた雨水を地面が吸い込む。
少しの間枝を揺らし、葉がピンと元の形を取り戻す。
好きだから、優しくしたい。
好きだから、触れたい。
そんな理由が、タクマさんも私と同じであって欲しい。
こう思い始めたのも傲慢だろうか。
付き合ったら、それでゴールみたいな気がしてた。
でも、違うんだ。
『長続きはしねぇよな』
そうなりたくない。
好きだから、ずっと傍にいたいから。
「綾乃、悪い。 なんか読みふけってもうこんな時間」
リビングで過ごしていたタクマさんが、カラカラと引き戸を開け、顔を出して私を呼んだ。
「……って、暑っ。 なにしてんだ、んな日なたで」
「自然観察。 全然いいよ。 タクマさんの連休なんだから」
「そういや、学生の休みは二ヶ月だっけか。 そろそろ外行くか?」
「……うんっ!」
駆け寄ってつい、また彼の腕にしがみついてしまい、ハッとしてそれを離した。
そういえば、半径一メートル。
恐る恐るタクマさんを見上げると、予想と違って穏やかな瞳にぶつかる。
「……あの、ごめんなさい?」
「変なやつだな、オマエって」
それだけ言って、タクマさんが先に玄関へと向かう。
なにが変なのかは分からないけど。
物理的な距離なんかに負けないんだから。
そう心を奮い立たせた私がそのあとに続いた。