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朝凪のくちづけ【R18】

第4章 半径一メートルの密度



****

……ポトン。

今朝の雨つゆで光った水粒が、木の葉っぱを傾けて、滴る。

それらをたくわえた下の葉が苦しそうに、吹く夏風に身を震わせた。


蒸し暑い真夏の昼下がり。
昼食後に私はテラスに降り、しゃがんでそれをじっと見詰めていた。



私を受け入れてくれたのが彼の優しさだとしても、それでもいい。

そう思ってた。
だけど今は、そんな考えはとっても傲慢なんじゃないかって。

それでもいい、なんて。 まるで私が被害者みたいに。



「でも、ちゃんと両思いだもん……」



好きだって、言ってくれた。

ついと指を伸ばし、水がたまって堪えている葉っぱをそっと弾いた。
ボートみたいになってた葉がしなり、溢れた雨水を地面が吸い込む。

少しの間枝を揺らし、葉がピンと元の形を取り戻す。



好きだから、優しくしたい。

好きだから、触れたい。



そんな理由が、タクマさんも私と同じであって欲しい。

こう思い始めたのも傲慢だろうか。


付き合ったら、それでゴールみたいな気がしてた。
でも、違うんだ。



『長続きはしねぇよな』



そうなりたくない。

好きだから、ずっと傍にいたいから。




「綾乃、悪い。 なんか読みふけってもうこんな時間」



リビングで過ごしていたタクマさんが、カラカラと引き戸を開け、顔を出して私を呼んだ。



「……って、暑っ。 なにしてんだ、んな日なたで」


「自然観察。 全然いいよ。 タクマさんの連休なんだから」


「そういや、学生の休みは二ヶ月だっけか。 そろそろ外行くか?」


「……うんっ!」



駆け寄ってつい、また彼の腕にしがみついてしまい、ハッとしてそれを離した。

そういえば、半径一メートル。
恐る恐るタクマさんを見上げると、予想と違って穏やかな瞳にぶつかる。



「……あの、ごめんなさい?」


「変なやつだな、オマエって」



それだけ言って、タクマさんが先に玄関へと向かう。

なにが変なのかは分からないけど。
物理的な距離なんかに負けないんだから。

そう心を奮い立たせた私がそのあとに続いた。


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