第4章 半径一メートルの密度
そうなんですけど。
せっかく二人っきりなんだから、仲良くしたいなあ。
「手を繋いでテレビ観るのは、駄目……?」
ホントは映画館で、だけど。 手すりの上で手を重ねるのとか、昔から憧れてた。
手を──────と、タクマさんの大きな手が視界の中にぬっと入ってきて、目の前が真っ暗になる。
「痛いよ……なんで、アイアンクロー?」
「知るか。 あんまこっち見んな」
これ、彼女に対する扱いなの?
元々タクマさんって、人知れず煙草止めたり諸々、有言どころか、不言実行の人なんだよね。
彼がダメだというからには絶対ダメなんだろう。
そして意味はよく分からないけど、「平常心」となんどか呟く彼の声が聞こえてきた。
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玉ねぎをむきむき。
とりあえず、お昼ご飯は家にあるもので適当に済ませることにした。
私は今、キッチンに立って料理をしている。
タクマさんは父の書斎に興味を持ったらしく、ゆっくりそこで時間を潰してるみたいだ。
「でも、これも新婚ごっこだよね」
なんとなく。
同じ屋根の下で、彼のために食事を作るとか。
「いわゆる、女の幸せってこんな感じなのかなあ?」
「メシ作りがか?」
声がして振り向くと、何冊かの本を脇に抱えたタクマさんが、キッチンを通り抜けたリビングに向かおうとしているところだった。
「時代錯誤かもだけど、作ったものが好きな人の健康に繋がるって幸せだと思うんだよね?」
「……いや、オレもそうだから分かる」
そう言いながら、なんかあったら手伝うから。 と、ソファに腰を掛けた。
なんだか、タクマさんがそんなことを思ってるなんて意外だ。
彼って、男っぽいイメージしかないんだけど。
彼が眺め始めた本を遠目から見ると、家やお店の建築の本だった。
「そういうの好き? うち、お父さんがデザイン事務所やってるんだよ」
「知ってる。 昔会った時、独立したばっかりだって言ってたっけ。 オレも昔、建築家になりたかった。 さっきの話じゃないけど家族出来たら、自分で家建てたいなとか、ガキん頃から思ってて」
これもまた、初耳。
……私、タクマさんのこと、大概分かってると思ってた。 さっきまでは。
実はそうじゃないらしい。