第4章 半径一メートルの密度
「フフ……ここまで付いてきたからには、覚悟は出来てるんだろうな?」
タクマさんがじっと私を見据えてきて、そしたらぞくっと私の肩が震えた。
「……オマエって普段、何からそういう知識仕入れてんの?」
「え? 少女漫画とかかな」
だろうなあ、そんな風にため息をつきながら、家に入ったなり玄関先で壁ドンをしてた私の手首を外して彼がそこからすり抜ける。
「大体、付いてきたってのも不適切だし」
「でも私、一度、やってみたかったんだよね?」
「それをなんでオマエがやる……まあ、それは置いといて、綾乃」
「はい?」
「ここに泊まるのは構わない。 防犯上の理由で。 でもオレは、オマエの父親の手のひらの上で躍らされるのは真っ平だから」
「どういうこと?」
「オレはイマイチあの狸親父の本意が読めない。 ひょっとすると、下手にオマエに手出したら、その辺の手癖の悪い男と一緒くたにされかねない」
いやそこは普通に手、出そうよ。
世間一般じゃ付き合いたてなのかも知れないけど、昨日今日の仲じゃない。
そもそも私、タクマさん以外は考えられないし。
「うー……んん ? ……お父さん、絶対そういう人じゃないんだけどなあ。 あ、それに、お父さんは、タクマさんのことかなりお気に入りだよね」
「それは知らねえけど。 それが原因で万一、オマエの家族が拗れたりするのは更に納得がいかねぇ」
考えすぎじゃない?
私のお父さん、娘の私からみても、ちょっと思い込みは激しいにしろ、基本のんびりしたオジサンだよ。
お母さんとも仲良いし。
「て、ことでだ。 綾乃オマエ、オレの半径一メートル以上近付くな」
「ええええ……?! なんで? それ、全然新婚ごっこ出来ない」
人のパーソナルスペースは恋人や家族で40センチとかって聞いたことがある。
そんなの、丸っきり他人じゃないの。
「今それは、やる必要ないだろ?」