第3章 ハチミツ味のSavage CAFE
何となく口を挟めない空気になって、心中ソワソワし始める中、父が気分を切り替えたようにすっと椅子から立ち上がった。
「と、なると。 定年後は孫たちに囲まれて、ここで悠々自適に過ごすという私の夢も叶うわけだな」
「お、お父さん?」
いやあなた、孫て。
「心配するな。 お前たちは気にせず新居を構えたらいい。 拓真くんが考えてくれるだろう」
タクマさんも、もはや能面みたいになってるじゃないの。
そんな私たちに意に介さず、父がさっさと別荘の中へと入っていく………かと思うと、五分も経たずに荷物を抱えてそこから出てきた。
「機は得難くして失い易し。 善は急げという。 綾乃、邪魔者のお父さんは東京に帰る。 拓真くんの連休が終わったら帰ってきなさい」
「え、あの」
「拓真くん。 くれぐれも綾乃には大学までは卒業させるように、分かってるね?」
「…………」
無言のタクマさん。
それってどういう意味、なんて訊く間もない。
「お母さんには話しておくが、連絡だけは寄越しなさい」
拓真くん、綾乃をよろしく頼むよ。
今度は東京のうちの方にも遊びに来たらいい。
そうして怒濤のように言いたいことを並べ倒し。
「お父さーん─────────……」
私の呼び止めも虚しく、父の車が遠く小さく消えてった。
蝉の声に混ざりチュンチュンと小鳥の声がさえずる中、雨上がりのデッキに、呆気に取られたまま取り残された私たちだった。