• テキストサイズ

朝凪のくちづけ【R18】

第3章 ハチミツ味のSavage CAFE



何となく口を挟めない空気になって、心中ソワソワし始める中、父が気分を切り替えたようにすっと椅子から立ち上がった。



「と、なると。 定年後は孫たちに囲まれて、ここで悠々自適に過ごすという私の夢も叶うわけだな」


「お、お父さん?」



いやあなた、孫て。



「心配するな。 お前たちは気にせず新居を構えたらいい。 拓真くんが考えてくれるだろう」



タクマさんも、もはや能面みたいになってるじゃないの。

そんな私たちに意に介さず、父がさっさと別荘の中へと入っていく………かと思うと、五分も経たずに荷物を抱えてそこから出てきた。



「機は得難くして失い易し。 善は急げという。 綾乃、邪魔者のお父さんは東京に帰る。 拓真くんの連休が終わったら帰ってきなさい」


「え、あの」


「拓真くん。 くれぐれも綾乃には大学までは卒業させるように、分かってるね?」


「…………」



無言のタクマさん。

それってどういう意味、なんて訊く間もない。



「お母さんには話しておくが、連絡だけは寄越しなさい」


拓真くん、綾乃をよろしく頼むよ。
今度は東京のうちの方にも遊びに来たらいい。


そうして怒濤のように言いたいことを並べ倒し。



「お父さーん─────────……」



私の呼び止めも虚しく、父の車が遠く小さく消えてった。


蝉の声に混ざりチュンチュンと小鳥の声がさえずる中、雨上がりのデッキに、呆気に取られたまま取り残された私たちだった。



/ 159ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp