第3章 ハチミツ味のSavage CAFE
なんでも話は、かれこれ15年前に遡るという。
私は当時三歳なので記憶はない。
やんちゃざかりの兄に両親が気を取られ、浅瀬で溺れそうになっていた私を助けてくれたのが、当時18歳のタクマさんだったのだと。
それから縁ができてよく言葉を交わすようになった二人だったが、お父さんがなぜかタクマさんをひどく気に入ってしまった、と。
「……そういう訳でね。 私は拓真くんをゆくゆくは綾乃の婿にと決めていたんだよ」
そういう訳だ、なんて言われても。
確かに最初は親と一緒に海に行ってたけど、お父さんとタクマさんが親しかった記憶なんてないよ。
「で、でも。 お父さんそんなこと、今までひと言も」
「私たちと連れ立って海へ行かなくなっても、お前は一人で毎朝通ってただろう? その前に、私たちを差し置いて、いつも拓真くんにベッタリだったし。 今までも休暇が近付くと、毎年ソワソワし出してたな。 私がお膳立てする必要もないだろうと思ったんだよ」
それでは、私がここに就職したいと言った理由も実は見透かされていたのだろうかと、今さらながらに複雑な気分になる。
「それに、拓真くん。 親の欲目もあるが、綾乃は美人でいい娘に育ったと思わないか? まあ、末っ子だから甘ったれで泣き虫なのは昔からだけどね。 芯は強い子なんだよ」
「そうですね……ちょっと、いやかなり危なっかしいですけど」
当初の私の思い付きとは逆に、肉親に外堀を埋められているらしい。
大体、本当に許嫁なら、何年もの私の告白を無視し続けられたというのもおかしな話。
これ以上はタクマさんが気の毒だ。
そう思い、話を遮ろうとするとその前にまた父が口を開いた。
「それもきみなら安心して任せられる。 父上は、あれから?」
「ちょうど17回忌ですね」
「……そうか」
タクマさんの、お父さん?
そんな話も、私聞いたことないよ。
確か両親は亡くなっているとは知ってたけど。