第3章 ハチミツ味のSavage CAFE
「……タクマさん?」
「来てんだろ? オマエの親父」
「えっ? お父さん?」
「少し顔出してく。 こっから近いんだろ? 行くぞ」
なんでいきなり私の親?
親に会う=娘さんをください、的な?
凄く嬉しいけど、さすがにそれはいきなりないない。
付き合うなりに挨拶なんて、それって普通なのかな?
グルグル頭を働かせようとするもそれがまとまらないまま、タクマさんは先にさっさと車を降りて、別荘の方向に歩き出していた。
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色々不可解な疑念を持ちつつも、今朝はテラスの内側で、父は優雅に文庫本を読んでいた。
「お父さん、ただいま?」
「ああ、綾乃。 今朝は随分早くから」
そう言いかけ、私のすぐ後ろから横並びで歩いていたタクマさんに気付いた父が、驚いた表情をする。
「お久しぶりです」
タクマさんが挨拶をし、そのあとに父がいかにも懐かしげに目を細め、掛けていた眼鏡をカチャリと外して、丸テーブルの上に置いた。
「……拓真くんか。 すっかり男っぷりが上がったなあ。 ……そうか、私の言う通りだったろう?」
「……まあ」
「仕事は順調か?」
「特に問題なく」
「うんうん。 きみならそうだろう」
そんな二人のやり取りを、ぽかんと口を開けて眺めていた私。
見たところ、まるで久しぶりに会った、親しい知人同士のような雰囲気だ。
「あ、あの……お父さん…? タクマさんを知ってるの?」
キョドる私の様子を面白がるように、勿体ぶって『何だったかなあ?』みたいに考えるフリをするのは父のちょっとウザい癖である。
そんなのは、今どうでもいいですから。
タクマさんの方を見ると、なんだか先ほどから苦虫を噛み潰したような表情。
そしてそれとは真逆に、機嫌良さげに笑みを浮かべた父が次に口にした内容に、私は驚愕でひっくり返りそうになった。
「もちろん。 彼はお前の許嫁だからな」
「へっ!?」