第3章 ハチミツ味のSavage CAFE
「さっきからちょっと不機嫌だよね?」
そう言うと、ふと一瞬空に視線を彷徨わせたあとで苦笑いした。
「……オレの機嫌なんか分かんの、オマエぐらいだな」
「だって、大好きだもの。 あ……そうだ」
「なに」
「私、好きが欲しいな。 タクマさんの、『好き』をちょうだい?」
「そんな言葉が欲しいなら。 好きだ…って、これでOK?」
「……なんか違う」
そんな腹減ったみたいに無表情でサラリと言わないでいただきたい。
眉を寄せて不満をあらわした私に、若干呆れたみたいに彼が小さく息をつく。
「ダメ出しかよ。 オマエも大体こんなもんだろーが」
「私のは違うもん。 でも、同じなのかな? 第三者からみたら、そうなんだろけど。 私の好きはなんたって、なにがあったって変わらないし、十年越しの初恋の」
好きにもクオリティがあるものだ。
私の好きは、何年ものあいだ、世界の中でたった一人に向けられたもの。
「おいおい、また旅立つな」
そして最初で最後でありたい、大事な大事な『好き』なんだから。
こういうのを、どうやってこのタクマさんに伝えようかと考え始め、そしたら彼の側の窓が暗くなったのに気付いた。
気付いて、顔をあげかけると昨日みたいに彼が私に近付いてくる。
「─────……」
あの時はびっくりして目をつぶってしまったけど、今日は斜めに向けられた精悍なタクマさんの顔に見惚れた。
まつ毛が当たりそうなほど近いままで、ゆっくりと移動している、彼の唇。
「……甘い。 なんだこれ」
ぺろっ、と舐められて我に返り、私の顔が一気にかあっと熱くなった。