第2章 昨日までとは違う海
冷たく少し湿った砂地。
それにも関さず仰向けに寝転んで、目をふせる。
夜の波の音は、朝のそれとは違う。
ざわざわと、不穏に揺れては忍び寄る。
こんなちっぽけな私の不安なんて、真っ黒な海にまみれて飛び散ってしまえばいいのに。
バラバラになって、ゆくあてもなく海面をさまよって。
波打ち際を歩くタクマさんに、しぶきと一緒に、ひとつの欠片でも届けばやっと私は安らかに眠れるんだろう。
「────────乃」
ザザン……──ザザ─────…
「………ボケ乃」
ボケじゃないもん。
「!!……いだあっ!?」
突然、おでこに激痛が走って、痛みの反動で自分の体が二、三回砂浜にゴロゴロ転がった。
「……若い女が地べたで安らかに寝てんな。 アホだろオマエ」
なになに今私、デコピンされたの?
「な、なんで?……親にもぶたれたことないのに」
涙目で、ズキズキと痛むおでこを抑えながら身を起こす。
薄灰色の海を背景に、いつの間にかタクマさんが目の前でしゃがんで、心底呆れたように私を見ていた。
「言わなきゃ分かんねえのか?」
「え……私に会いたかったからって?」
「…………」
そんな、ゴミでも見るような目でこっちみなくても。