第10章 終章 わたしの心の青海原
気付けばまた夜になり丸い月が暗い空に浮かぶ頃、今晩の私たちは昨日行き損ねた海辺へと出掛けることにした。
タクマさんの家は玄関から門までの距離があるだけで、私の別荘よりも海に近い。
すぐに心地よい波音が聴こえてくる。
ザザ──…
「私の居ないときにも、朝は海に行ってるんだよね」と訊くと「ああ」と頷く。
「でも冬はひたすら寒い。 熱いコーヒー淹れて持ってったり」
今年は私も一緒に行きたいなあ、なんて思う。
「私のこともたまに思い出してね」とお願いをしてみたら、「今わの際みたいな言い方やめろ」ちょっとだけ怒られてしまった。
公道沿いのいつもの石段を降り浜辺に出て周りに街灯なども何も無くなると、煌々とした満月が輝き辺りを明るく照らしていた。
ザザ…ン─────────
砂を踏みしめるタクマさんが月のクレーターには名前があると話をしてくれた。
そしてそれには、言葉の終わりによく海とついているのだと。
「実際は水なんてないのにね?」
「昔はあるって言われてたからなあ。 っても、それはまだ厳密には分かんねぇらしいけど。 溶岩石の地質が似てるからとも。 でももしかして、こういうとこでつけたんかもな」
この地球とおなじに、おごそかに水をたたえる月の海。
そんなものを想像しながら月明かりの下の海辺を彼と歩く。
光の筋が長く伸び「こんな月の晩は夜の海もいいね」とそれを遠くに望んだ。