第10章 終章 わたしの心の青海原
「取んな。 電話とかもな。 あれ、顔見ながらだとオマエ録画するだろ絶対」
「……すごい。 よく分かるね?」
私のしようとしてることとか。
さすがタクマさんだ。
だって電話だって、録画しておいたらタクマさんと何度でも会えるわけだし。
笑い過ぎたのか、目尻に少し溜まった涙を拭ってから握っていた私の腕を彼が強く引き寄せた。
「ひゃ」
広いダブルベッド。
フカフカのそれに体が沈んで、また跳ね返るその前にタクマさんが上から体重をかけてきた。
「……結構、つかかなり。 思ってたより斜め上だったけどな。 実は綾乃。 そんなキレイなモンじゃねえよ」
まだ笑いの端っこが残った顔で。
だけどそれは楽しそうと呼べるものではなかったので、私はなにも言えなかった。
「薄々分かってきてんだろ? 海に向かって嫉妬なんかするもんじゃねえし、言葉を欲しがったりもしねえ。 で、オマエは弱い人間ではないし、オレはそれ程強くもない」
そうなの……かな。
さっきも感じたあの得体の知れない寂しさは、そんな理由だったのかな?
たとえば今は息遣いさえ感じるほどに彼はここにいるというのに。
「単に眺めてりゃいいだけだったのに、オマエはそれ以上を欲しがった。 なあ、チビ。 ごっこ遊びなんか、いつまでやるんだ?」
馬鹿にしたような言葉を吐く一方、彼の目はそう言ってない。
冷たいようで。
労わるようで。
切ないようで。
「ひと回り以上も歳が違う女に、オレは惹かれてくばっかだ。それに見合う相応の覚悟はオマエにあるのか」
私が触れたかったもの。
そして望んだ唯一のもの。
もしも私たちの関係が変わるのなら。 離れる方に、悪い方に変わるのなら、私が変わればいいだけだ。
だって私はいつだってそうやってきた。
「あるよ、だ………っ」
直ぐに出た私の肯定の言葉の最後は重ねて塞がれた口で掻き消された。