第10章 終章 わたしの心の青海原
ただそこに在る。
どうしようもなく惹かれる。
寄せては返す波のように心に描いて止まない思慕。
「ないと、息が出来なくなるんだよ。 だからどうやったらタクマさんのそばに居られるのかって、私の軸はもう決められてるの。 ……理屈じゃないから説明が難しいんだけど」
私は、父やタクマさんみたいにたくさんの言葉を持っていない。
でも多分こんな感じだと思う。
人が持っている限られた選択肢。 それは自分にとっては選ぶものでなく、私の場合は最初から決められているもの。
「簡単なんだよ。 そしてその中で私は自分に出来ることをしてるの」
そう説明すると、持っていたペットボトルを下にさげたまま呆気にとられた様子のタクマさんの表情だった。
「……それは、すげぇな」
……そんな顔をされるほどおかしいことだとは思ってないんだけどなあ。
「そうなの……? だから、私はタクマさんのものなんだよ。 だけど、そうだね……そしたら、タクマさんが重いのが嫌なら、軽くなればいいんだよね。 ねえ、どうしたらそうなれるんだろう?」
タクマさんは私より物知りだから。 頬に手を当てながらそう言って、ベッドに寝転がって細かく震えているタクマさんに気付いた。
「タクマさん? あの」
どうしたんだろうか。
具合でも悪くなったんだろうか?
そう思ってそろっとそばに寄ってみて、彼が笑っているのに気付いた。
「なんか面白かった?」
「はは…充分。 ふっ…ヤバい。 ははっ…」
大笑いしてるタクマさんって、私、生まれて初めて見たかもしれない。
……これは出来れば動画に取っておきたい。
そう思い、急いでソファの下に置いてあるバッグを取りに行こうと思ったら足を踏み出した瞬間に手首をつかまれた。