第10章 終章 わたしの心の青海原
「顔見りゃ大体分かるから……で、今朝のこと言うんなら。 1は、初めて抱く相手に慣れなんか持つわきゃねえし。 2はむしろ真逆だし、3はこんな女に手出しちまったのに罪悪感っつーと少し語弊があるな。 単に、オレがビビっただけだ」
罪悪感?
だから今朝彼は、あんなことを言ったのだろうか。
「……私って、重いの?」
とはいえ、今の彼には特に重苦しい話をしている雰囲気はなく。
普段通りにペットボトルのキャップを回してからそれを一口飲む。
「そうじゃねえ。 いや……オマエはオレが笑うと嬉しそうだし、そうじゃない時は一緒にどっかおかしくなる。 フツーに当たり前みたいにあんないい家族と離れてこんなとこに住もうとする。 体調崩すのも。 ……オレは神様なんかじゃねえし、そんな風に生きてく気もねえ」
批判されているわけでもなくなにか答えを求めてる風でもない。
急にそんなことを言い始めた彼になんと返そうか。 考えながら、私も彼の向かい側のソファにお尻を乗っけた。
「ええと……でも、私は……そう。 私にとってタクマさんは、タクマさんにとっての海みたいなものなの」
「海?」
『彼は、ここで生きていきたいのだと』
父がそう言っていた。
タクマさんにとっての『ここ』は、きっとあの海だと私は思っている。
『アタシが過ごした海だもん』
『もうなんにもなさすぎて、逆にそれが好きなんだよね』
そんな風に言っていたタクマさんの友人たちと同じように。
タクマさんは色んな人と様々な感情とともに、たくさんの年月を広大な空の下にあるあの海辺で過ごしたはずだ。