第10章 終章 わたしの心の青海原
「駐車場、借りてるの?」
「こりゃうちの土地だな」
と、彼が神社並に大きな屋根付きの門をくぐっていく。
神社の左右の塀は遥か向こうまで続いていて、控えめな表札に『伊東』と書いてあるタクマさんの苗字を確認した私はやっと、これが個人の家なのだと認識した。
海辺らしく塀沿いの松林の並びを抜けると季節柄、緑の濃い背の高い木々が乱立している。
そして玄関までの距離も長い。
石畳を辿っていくともれなく、背の低い草木が配置された個人の住宅らしい敷地が広がる。
芝生が敷かれた庭もジョギングでも出来そうな程に広い。
タクマさんが玄関に向かって歩いているのは、確かに昔ながらの平屋の家だけど、建物自体も立派だし、諸々含めてうちの実家が50個ぐらいは収まりそう。
ここ、重要無形文化財かなにかなの? ぽかんと口を開けて驚く私に玄関の鍵を開けて先立って歩く彼が笑う。
「東京と比べんなよ。 こんな場所、二束三文だろ」
二つに分かれた玄関から両側に立派な柱がいくつか並んだ広間を抜ける。
畳敷きのその部屋には座敷らしく大きなテーブルがいくつか配されていて、風通しのために襖はいつも開けているのだとタクマさんが説明してくれた。
そこからさらに二つの部屋を通り過ぎ、タクマさんがあまりここにはそぐわない今風の作りのドアを開けた。
これもまた天井が高く広いワンルームだけど、今度は格式のあるホテルかなにかの一室のような佇まい。
「ここしか使ってねえんだよな。 少しだけ手加えたけど……維持も面倒だから、売ってもいいんだけどな。 それはそれでまあ、色々と。 とはいえ、オレ一人だから。 近々なんとか片付けるつもり」
いくらタクマさんのお父さんが立派な職についていたとはいえ、ここには一代で建てたとは思えない趣がある。
この太い柱も、ヒノキかなにかだろうか。
確かヒノキの一枚板でも何百万するとかなんとか。
「ご、ご先祖さま、立派だったんだねえ……?」
「ひいひい爺さんの頃からだから、150年は経つらしい。 親父も頑なに手放したがらなったんだよな。 使わない部屋だらけの家に、なんの意味があるんだか」