第10章 終章 わたしの心の青海原
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タクマさんの家は海辺にも徒歩で行けるぐらいと聞いてるから、ここの別荘とは反対側だといってもそんなに遠くないはずだ。
それでも薄曇りの今朝の空模様を見て、車で出掛けることにした。
陽が出ていないせいで幾分か過ごしやすい朝。
穏やかな綾波が吹く潮風を巻き込んで、薄青色の空を映す。
「しっかし……オマエが子供の面倒見たがるとかなあ。 なんか妙に感慨深えというか」
いつものように窓を少し空けて運転をしつつ。
しみじみと呟いている彼の脳内には今、幼児の私がいるのだろう。
それが特に嫌だというわけじゃないけど。
『そんなの考えてんのは、余裕のあるときだけどな』
今私が着ている大人っぽいサマードレスや昨晩のことを考えると、なんだかちょっとだけ寂しく思う。
……ヤキモチといい、恋愛とは、贅沢病だ。
だって以前の私なら、こうやってタクマさんと二人っきりで海を見てるだけで幸せだったもの。
言葉を重ねて、肌を重ねて、増えていくはずの幸せ。
それなのに二人でいるときに寂しいなんて?
でも、もしかしたらなにかが減ってるのかな?
それとも単に『幸せすぎて怖い』。
それはこういうことなんだろうか。
「どうかしたか。 また微妙なカオしてるけど」
ぽん、と前を見てる彼が私の頭に乗っけた手のひら。
運転をしていてもさりげなく私を気にしてくれるタクマさん。
そんな彼に先ほどまでの感情も吹っ飛んで、じわっと胸が熱くなる。
「……やっぱり私は、世界一幸せなんだなと思うんだよ」
「そりゃ結構」苦笑した彼が車を停めた場所はだだっ広い空き地の一角だった。
雑草が増えすぎないほどには手入れがしてあるけれど何もなく、放置しっぱなしの土地らしい。