第10章 終章 わたしの心の青海原
少なめに盛ったご飯と野菜のお味噌汁。
卵焼きを口に運んで、黙々と食べてる目の前のタクマさんをじっと見る。
そしてこれはまた関係ないけど、まだちょっとだけ濡れてる髪から覗く切れ長の目が色っぽい。
「……なんか顔についてるか? 美味いけど」
そういえば、今朝はキスも無かったっけ。
その理由をなんでだろうと考えてみる。
1. こういうことに慣れてるから
2. 昨晩あんまり良くなかったから
3. 今朝の私の格好がイマイチ
「……って、訊くのもなあ」
「また心の声がフツーにダダ漏れだし。 どれも微妙にハズレ」
「…………」
少しだけふっと優しい表情になったタクマさんがお茶の湯呑みを口に運び、立ち上がると同時に顔を傾けて私の頬っぺたにキスしてくれた。
「口になんか塗ってたから取れるかなと思って。 ああ、オレが洗うから。 ご馳走様」
不意打ちで頬に手を当てて無言になってる私を尻目に、カチャカチャ器を重ねキッチンに運ぶ。
後ろ姿の彼が私に話しかけてくる。
「……オマエって、重いよな。 限りなく」
「そ、そんなことないよ。 体調が元に戻っただけで。 服のサイズも変わってないよ?」
「体重の話じゃねえよ……そいやオマエ、大学卒業したら、こんなとこ来てなにすんだ?」
「あ、それ。 考えてたんだけど、学校の先生とか」
子供は好きだし、教えるのも楽しいから。 そう言うと洗い物が終わって蛇口を閉めたタクマさんが振り向いて、うーん、と考え込むように視線を空に浮かせた。
「……あんまり、勧めねえけど。 ハードだし子供相手だけっつ訳でもねえし。 オマエの場合、こないだみてえに自分でも知らねえうちに色々抱え込みそうで。 んなら、塾講師とかがいんじゃね」
「でも教員の方が収入も安定してるし、福利厚生も整ってるよね?」
「んなもんは……」言いかけて「まあ、むしろそれはこっちか」と独り言を呟く。
「………?」
キッチンのシンクにもたれたまま黙ってしまったタクマさんを不思議に思った。