第10章 終章 わたしの心の青海原
「……なんでそんな、朝からめかしこんでんだ……」
少しだけ眠そうな目を一度左手で擦り、ベッドボードに寄りかかって頭の後ろで手を組んだタクマさんが私を見る。
真っ白な透け感のあるレースのワンピースは貞淑さを表し、その上のエプロンは外せない。
柔らかな印象の薄いアイメイクと、常に家庭に明るさを提供するためのオレンジ系のグロス。
髪は高い位置でまとめ、軽くヘアアイロンで毛先を巻いて。
これは機能性と手抜きの無さを示している。
それから、えっと。
「朝ごはんにする? シャワー浴びる?」
「……新婚ごっこの続きか? で、それとも私って選択肢はねぇのかよ」
「そ、それは確か、夜ごはんのバージョンだよね?」
ぽっと顔を熱くした私に。
やや間が空いて押し黙っていたタクマさんが「シャワー浴びてから、メシを食う」と言った。
「じゃあ、ダイニングで待ってるね!」
「分かった」
今朝はまたぶっきらぼうなタクマさんのようだけど。
「ああ、それから。 メシ食ったら出かけようぜ。 オレん家とか」
そう言って呼び止められた時に、窓の外を眺めて今日の天気を確認している彼は平常運転だ。
今朝の朝食は簡単なものを作った。
そもそも、朝の彼はあまり食事を取らなかったはずだ。
私の実家では母に気を使って無理矢理食べてたみたいだったけど。
……とは、いっても。
特別な夜を過ごした翌朝って、もっとこう、甘いものを想像してたんだけど。
タクマさんだから、仕方ないのかなあ。