第9章 One hundredth time「少し」
ベッドの上に下ろされ、着替えていたTシャツを脱いだタクマさんに見蕩れる間もなく、彼が私の脇に手をついた。
肩に回された腕が私をベッドにゆっくりと横たえる。
私を見詰めるタクマさんの瞳はとても穏やかで、それが私の強張りをほぐさせた。
明かりのついたダイニングの奥。
私の薄暗い部屋の壁に重なった黒いシルエットが浮かび上がる。
「大好きだよ」
思わず涙ぐんでそう言い押し黙った私に、彼が薄く笑いを洩らした。
「なにげに、圧を感じんだけど……」
「オレも好きだって」そう笑いながら口付けてきて、つられて私も可笑しくなった。
でも、彼は今本当はどう思ってるんだろう。
「今……なに考えてるの? もしかしてまた……私の子供の頃のこと、思い出してたりする?」
軽く唇を合わせながら言うと「……いや」と、私の肩からするりと衣服をはだけさせた。
「そんなの考えんのは、余裕があるときだな」
タクマさんが私の胸元に付けたいくつかの紅い花の跡。
つつとそれを指でなぞり、詫びるように舌でなぐさめる。
それを合図にカチッ、と耳に聞こえないスイッチを入れられたようだった。
私の体を淫らに変えるそれはタクマさんだけが持っている。