第9章 One hundredth time「少し」
背中に回された手が襟ぐりのファスナーを見付け、難なくそれを剥いでいく。
ふっ、と胸の窮屈さがなくなりブラのホックも外されたのだと分かった。
「……ぁっ」
その際背中を引っ掻かれた指先のせいで、小さな、だけどあからさまな声が漏れ出た。
急に体に乗っていた重みがなくなり薄目を開けるとタクマさんが体を起こして私に視線を落としている。
「……何してんだ、こんなとこで」
それ、私のセリフですから。
おそらく真っ赤になってるであろう顔でプルプル震えてる私をしばらく見て、タクマさんがハア、とため息をつきながら髪を掻きあげた。
「……悪い」
ひと言そう言ってデッキに膝をつき、私の背中と膝の裏に腕を入れる。
そのまま持ち上げられたので慌てて彼の首にしがみつくと私の頬に唇をつけた。
「……オマエ、時々出現する謎の煽り上手なんとかしろよな」
「わ、私がこうなるのは、タクマさんにだけだよ」
先ほどから触れられていた体を抱き上げられて、擦れた肌に身動ぎをし何度かに分けて息を吐く。
無言のタクマさんにそろっと視線をあげると、なぜか顔を逸らされた。
「オマエの部屋でいいか」そう訊かれた答えの代わりに、きゅっと彼に抱きついて、そしたら「それ以上やんなら投げるぞ」などと怖いことを言う。
「……でもオレ、ゴム。 車ん中にあったっけ」
「私、あるよ?」
間を置いて「なんで」と言うので、
「お母さんが持っていきなさいって。 特売用で10箱。 安かったんだって」
そう返事をすると。
「……そつ無くいい親な。 で、またも100回か。 これも死ねそう」
口許だけで小さく笑った。