第8章 丁度良い焼き加減だったらどんな味?
カーテンを開けたダイニングの明かりだけがほの暗く辺りを照らしている。
……暗さとは、良い意味でも悪い意味でも人を饒舌にさせるものなのかもしれない。
「大人んなって、オレは今は相手のことなら大概は分かる……オレが言わないのは、見つからないからだ。 肝心な時に、ピッタリ来る言葉がいつも無い。 好きだとか愛してるとか、愛おしいとか可愛いとか……似てるようでどれも違う。 そんなのになんの意味がある?」
「でも、私のこと好きだって、言ってくれたよ」
「嫌いでは決してないし、言えと言われて出し惜しみするもんでもねえ……例えば」
片方の手でまたグラスを口に運んだ彼が、私の肩から首の辺りに移動した手で自分の方に引き寄せ口付ける。
そこから冷たい液体が流しこまれてきたので、戸惑って目を見開いた。
「ンん?……ん!」
意外とその量が多く、こくんこくんと飲み込んでむせそうになると彼が口を離した。
「コレどう?」
「熱い……し、痛い。 苦くて不味いし、もう要らない」
氷だけを入れたウイスキー。
喉が焼けるみたいだし、そもそも変な味しかしない。
「だよな。 でも、飲んじまえば飲み込むしかない。 人によっては何度も手を出しちまう。 使い方によって毒にも薬にもなる。 オレにとっての『嫉妬』はこんな強い酒みたいな感じ……と、これは分かる」
そう言いながらカラカラとグラスを二、三回傾けて、飲まずにお盆の上に置いた。