第8章 丁度良い焼き加減だったらどんな味?
明らかに気分を害した様子だったけど、タクマさんはそれを打ち消すように小さく息を吐いた。
「らしくねえな。……好きにすりゃいい」
「そ、そうなんだ?」
らしくない。
それはきっとその通りで。
なんでこんなことを言っているのか自分でもよく分からなかった。
言えば言うほど、心が悲しくなりそうなのは分かり切ってるのに。
「あと、勝手に好きだ好きだ言っといて、消えるつもりならもう言うな」
「言うよ。 だって大好きだもの」
「……ワケ分かんね」
特に声を荒らげることもなく、冷たく私を突き放すタクマさんはまるで付き合う前の彼のよう。
なにも変わってなかったんだろうか?
気の無い様子で紗栄子さんのことを話すタクマさんにとって、私も結局同じになってしまうんだろうか?
まるで瞬きのうちに消えた線香花火みたいに、彼と過ごした時がただの錯覚だったのだと、そう考えるとたまらなくなった。
「た、タクマさんがいつも言ってくれないのはそのせい? 消えちゃうから? 居なくなるから?」
「まだ続けんのか? この話」
自分の足元を見詰めたまま、喉の奥に込み上げてくるのはどうしようもない寂しさ。
それから怖さ。
黙り込んでしまった私の後ろで彼が身を起こした気配がした。