第8章 丁度良い焼き加減だったらどんな味?
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闇に浮かんでは消えてを繰り返す閃光。
花のようにいくつかの塊が開いて消えかかり、また開く……かと思いきや、こちらの期待も空しく夜に吸い込まれていく。
「……とりあえず、なんでコレとは言わねえけど」
「意味もなく切ないね……」
別荘のテラスの脇にて。
デッキに並んで腰かけた私たち二人は、手にしている線香花火の儚さにポツリと小さく呟いていた。
座っている隣にあるお盆には、タクマさんが買ってきてくれたお菓子やピクルスのような簡単なお惣菜と、彼が東京からこちらに帰るときに父がプレゼントしたウイスキーが置いてある。
「普段オレもこういうのは飲まねえけど、せっかくだから」と私には、薄く薄く炭酸で割ったそれをタクマさんが作ってくれた。
ナントカというモルトウイスキーの10年物とか?
薄めすぎて、私にはただの炭酸水だけど。
「お徳用で安かったんだよ。 線香花火100本セット」
「100回切なくなんのかよ……死ぬだろソレ。 五本位まとめたら少しはアガんねえかな」
タクマさんが花火を何本か束ねて火をつけて、しばらく。
「むしろ泣くかも。 ……わわっ!」
勢いよくバチバチッ!と大きな火花を上げ始めたそれにお互いに体を離して見入った。
闇夜に咲く、大輪の花。
「おー。 いい感じ」
「わあ…綺麗だね!?」
私たちが騒がしいせいか耳に入ってくる虫の音は今は遠くから聴こえた。
虫たちも息をひそめてこの花火を眺めてたり、するのかな。